English

うまっている下の親知らずと、そのそばを通る神経

下は、左の下あごの3Dモデルです。一部のスマートフォンやタブレットでは、AR(拡張現実)でも見られます。ARは、カメラにうつる実際の部屋の中に、モデルがあるように見せる機能です。

ドラッグで回転、ピンチで拡大・縮小できます。番号の点をタップすると、その部分の説明が出ます。番号を消すで、モデルを見やすくできます。AR表示をタップすると、近くの机の上や平らな場所にモデルを置けます。

ARは、ARに対応した機器とブラウザでだけ使えます。たとえば、iPhone・iPadのSafariや、多くのAndroidスマートフォンのChromeです。ARのボタンが出ないときは、その機器やブラウザではARを使えません。iPhoneでは、AR画面の上の「オブジェクト」をタップすると、モデルをどの向きにも回せます。

一人一人、ちがいます

歯の形、神経の位置、危険の大きさは、人によって大きくちがいます。ここにあるのは、多くの人に向けた情報で、一人一人への助言ではありません。どの治りょうでも、始める前に、歯医者さんや口の手術の先生が、一人一人と、利点・危険・ほかの方法について、くわしく話し合います。

どんな状態ですか?

親知らずは、いちばんおくにある歯です。「第三大きゅう歯」ともよびます。うまっている下の親知らずは、歯ぐきと骨の下にあり、歯ぐきの上に出ていません。正しい向きに生えることができません。

神経について

下あごの骨の中には、細い管があり、その中を神経が通っています。ここでは「下あごの神経」とよびます。医学での名前は「かしそう神経」です。同じ管の中を、2本の血管(かしそう動脈とかしそう静脈)もいっしょに通っています。1

下あごの神経は、顔の感覚を伝える大きな神経「三さ神経」の枝です。三さ神経の3つの大きな部分のうち、いちばん下の部分(かがく神経)から出ています。神経・動脈・静脈は、舌側にある小さなあな(かがくこう)から、あごの骨に入ります。1 このあなの前のふちにある、小さなとがった骨を「小舌」といいます。2

下あごの神経は、同じ側の下の歯と歯ぐきの感覚を伝えています。3 あごの前の方で、この神経の枝が、骨の小さなあなから外に出ます。この枝を「おとがい神経」とよびます。下くちびるとあごの感覚を伝えています。4

舌の感覚は、別の神経(舌神経)が伝えています。舌神経も、親知らずをぬくときに傷つくことがあります。5 舌神経の傷がずっと続くことはまれで、1000人に1〜3人ほどです。6 このモデルでは、舌神経は表していません。

このモデルでは、親知らずの根が、神経と動脈に巻き付いています。

歯をぬくと、なぜ神経が傷つくことがあるのですか?

歯をぬくには、根を骨から取り出す必要があります。根は、神経を囲むように曲がっています。そのため、根を取り出すときに、神経がおされたり、のびたり、切れたりすることがあります。いっしょに通る動脈や静脈が傷ついて、血が出ることもあります。1

下あごの神経が傷つくと、その枝のおとがい神経もうまく働かなくなることがあります。4

神経が傷つくと、どうなりますか?

同じ側の下くちびる、あご、歯、歯ぐきに、次のようなことが起こります。3

顔と、下の歯と舌の図。親知らずと同じ側で、下の歯が赤(下あごの神経)、下くちびる・あご先・前の歯ぐきがオレンジ(おとがい神経)、舌の前の部分・口のそこ・舌側の歯ぐきが青(舌神経)。
親知らずと同じ側で、それぞれの神経が感覚を伝える所です。神経が傷つくと、この部分の感じ方が変わることがあります。a:前から見た顔。b:前から見た、下の歯と舌。748 この研究のためにかいた図です。

くちびるや顔は、今までどおり動かせます。3

一時的な場合:感覚はもどります。多くは、数週間から数か月かかります。3
ずっと続く場合:感覚が完全にはもどりません。3

年れい:24才くらいより上の人では、神経が傷つきやすくなります。3 年れいが高いほど、感覚が完全にはもどりにくくなります。9 5年間調べた小さな研究では、30才未満の人は全員、感覚が完全にもどりました。30才をこえる人では、8人中3人だけでした。10 ただし、何才から変わるかは、研究によってちがいます。

どのくらい起こりますか?

根が神経に近い親知らずについて、16の研究をまとめた報告があります。結果は次のとおりです。11

100人中 約7人歯を全部ぬいた後に、神経が傷ついた
100人中 約1人神経の傷が治らなかった

3Dの検査が役に立つ理由

ふつうの、口全体のレントゲン写真を「パノラマ写真」とよびます。英語では「OPG(オルソパントモグラム)」といいます。これは平らな写真です。平らな写真では、本当は根が神経にふれていなくても、ふれているように見えることがあります。12 パノラマ写真にも、根が神経に近いことを知らせるサインがあります。13

「CBCT」は、3Dのレントゲン検査です。「コーンビームCT」の略で、歯科用のCTです。根が本当に神経にふれているかがわかります。神経が根のどちら側にあるかもわかります。12 研究では、パノラマ写真よりもCBCTの方が、これをよく見分けられました。14

よく似た2まいのパノラマ写真と、それぞれのCBCTの3D画像。上のCBCTでは歯は神経にふれていません。下のCBCTでは根が神経に巻き付いています。
2まいのパノラマ写真(aとc)は、よく似ています。でも、CBCTで見ると、ちがいがわかります。上(b):歯は神経にふれていません。下(d):根が神経に巻き付いています。bとdでは、歯が黄色、神経がオレンジ色です。12 写真:Rodriguez y Baena R, et al. J Clin Exp Dent. 2017, Figure 1. ライセンス:CC BY 2.5。元の画像のまま使用。

次の画像で、それぞれの検査がどう見えるかがわかります。ある人の下の親知らずの画像で、神経が根の間を通っています。15

上:口全体のパノラマ写真。中:下の親知らずとあごの骨のCBCTの断面のならび。下:CBCTから作った3Dの画像。白い親知らずの根の間を、黄色の神経が通っています。
a:パノラマ写真。口全体を1まいの平らな写真で見ます。b:CBCT。あごを、うすく切ったパンのような、たくさんの断面で見ます。骨の中の小さな黒い丸が、神経の通る管です。c:コンピューターで、CBCTの断面から3Dの画像を作れます。親知らずは白、神経は黄色です。15 画像:Marquez Rocco V, et al. Clin Case Rep. 2026, Figure 1, 2(上の列), 3. ライセンス:CC BY 4.0。切り取って1つにまとめ、a〜cの文字を加えました。

CBCTは、パノラマ写真よりも多くのエックス線を使います。そのため、パノラマ写真で根が神経に近いかもしれないときに使います。12

歯をぬくことの危険

ぬいた後は、いたみ、はれ、口が開けにくくなることがよくあります。多くは、短い間でよくなります。16

それより少ないですが、ぬいた後のあなが感染することがあります。また、あなの血のかたまりが取れて、強くいたむこと(ドライソケット)もあります。16 上で説明したように、神経が傷つくこともあります。16

歯をぬかないことの危険

残した親知らずが、後で問題を起こすことがあります。たとえば:17

ある研究のまとめでは、ぬいた親知らず100本のうち、約4本にのうほうがありました。18 そのため、残した歯は定期的な検査が必要です。17

一人一人の危険と、いちばんよい方法については、歯医者さんや口の手術の先生がくわしく話します。

歯医者さん・口の手術の先生が提案するかもしれない方法

どの治りょうでも、始める前に、歯医者さんや口の手術の先生が、利点・危険・ほかの方法を、もっとくわしく説明します。

歯医者さん・口の手術の先生に聞いてみたいこと

参考にした論文

  1. Juodzbalys G, Wang HL, Sabalys G. Anatomy of mandibular vital structures. Part I: mandibular canal and inferior alveolar neurovascular bundle in relation with dental implantology. J Oral Maxillofac Res. 2010;1(1):e2. doi.org/10.5037/jomr.2010.1102
  2. Hsu KJ, Lee HN, Chen CM. Morphological investigation of mandibular lingula: a literature review. J Pers Med. 2022;12(6):1015. doi.org/10.3390/jpm12061015
  3. Sarikov R, Juodzbalys G. Inferior alveolar nerve injury after mandibular third molar extraction: a literature review. J Oral Maxillofac Res. 2014;5(4):e1. doi.org/10.5037/jomr.2014.5401
  4. Juodzbalys G, Wang HL, Sabalys G. Anatomy of mandibular vital structures. Part II: mandibular incisive canal, mental foramen and associated neurovascular bundles in relation with dental implantology. J Oral Maxillofac Res. 2010;1(1):e3. doi.org/10.5037/jomr.2010.1103
  5. Renton T, Yilmaz Z. Profiling of patients presenting with posttraumatic neuropathy of the trigeminal nerve. J Orofac Pain. 2011;25(4):333-344. PMID 22247929. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22247929
  6. Lee J, Feng B, Park JS, et al. Incidence of lingual nerve damage following surgical extraction of mandibular third molars with lingual flap retraction: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2023;18(2):e0282185. doi.org/10.1371/journal.pone.0282185
  7. Khoury J, Townsend G. Neural blockade anaesthesia of the mandibular nerve and its terminal branches: rationale for different anaesthetic techniques including their advantages and disadvantages. Anesthesiol Res Pract. 2011;2011:307423. doi.org/10.1155/2011/307423
  8. Ngeow WC, Tay HW, Sarna K, et al. Challenges in diagnosing the course of the lingual nerve for clinical practice and research. Diagnostics (Basel). 2025;15(13):1609. doi.org/10.3390/diagnostics15131609
  9. Queral-Godoy E, Valmaseda-Castellón E, Berini-Aytés L, et al. Incidence and evolution of inferior alveolar nerve lesions following lower third molar extraction. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2005;99(3):259-264. doi.org/10.1016/j.tripleo.2004.06.001
  10. Kjølle GK, Bjørnland T. Low risk of neurosensory dysfunction after mandibular third molar surgery in patients less than 30 years of age. A prospective study following removal of 1220 mandibular third molars. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2013;116(4):411-417. doi.org/10.1016/j.oooo.2013.06.024
  11. Rico-Barroso L, Barroso-Medel M, Gutiérrez-Pérez J, et al. Coronectomy as an alternative technique to complete extraction of mandibular third molars with risk of nerve injury. Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2026;31(1):e19-e30. doi.org/10.4317/medoral.27459
  12. Rodriguez y Baena R, Beltrami R, Tagliabo A, et al. Differences between panoramic and Cone Beam-CT in the surgical evaluation of lower third molars. J Clin Exp Dent. 2017;9(2):e259-e265. doi.org/10.4317/jced.53234
  13. Rood JP, Shehab BA. The radiological prediction of inferior alveolar nerve injury during third molar surgery. Br J Oral Maxillofac Surg. 1990;28(1):20-25. doi.org/10.1016/0266-4356(90)90005-6
  14. Reia VCB, de Toledo Telles-Araujo G, Peralta-Mamani M, et al. Diagnostic accuracy of CBCT compared to panoramic radiography in predicting IAN exposure: a systematic review and meta-analysis. Clin Oral Investig. 2021;25(8):4721-4733. doi.org/10.1007/s00784-021-03942-4
  15. Marquez Rocco V, Thor A, Hashim AA, et al. Root migration after coronectomy of a mandibular third molar with the inferior alveolar nerve passing between the roots: a case report. Clin Case Rep. 2026;14(10):e73673. doi.org/10.1002/ccr3.73673
  16. Bailey E, Kashbour W, Shah N, et al. Surgical techniques for the removal of mandibular wisdom teeth. Cochrane Database Syst Rev. 2020;7(7):CD004345. doi.org/10.1002/14651858.CD004345.pub3
  17. Ghaeminia H, Nienhuijs ME, Toedtling V, et al. Surgical removal versus retention for the management of asymptomatic disease-free impacted wisdom teeth. Cochrane Database Syst Rev. 2020;5(5):CD003879. doi.org/10.1002/14651858.CD003879.pub5
  18. Mello FW, Melo G, Kammer PV, et al. Prevalence of odontogenic cysts and tumors associated with impacted third molars: a systematic review and meta-analysis. J Craniomaxillofac Surg. 2019;47(6):996-1002. doi.org/10.1016/j.jcms.2019.03.026
  19. Juodzbalys G, Daugela P. Mandibular third molar impaction: review of literature and a proposal of a classification. J Oral Maxillofac Res. 2013;4(2):e1. doi.org/10.5037/jomr.2013.4201

このページは、名古屋大学の研究のためのものです。第1.0版(2026年10月16日)。